蝶鳥てふとり)” の例文
が、蝶鳥てふとり几帳きちやうを立てた陰に、燈台の光をまぶしがりながら、男と二人むつびあふ時にも、嬉しいとは一夜も思はなかつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しんならず、せんならずして、しかひと彼處かしこ蝶鳥てふとりあそぶにたり、そばがくれなる姫百合ひめゆりなぎさづたひのつばさ常夏とこなつ
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
柿色に蝶鳥てふとりを染めたる大形の裕衣ゆかたきて、黒襦子くろじゆす染分そめわけ絞りの昼夜帯ちうやおび胸だかに、足にはぬり木履ぼくりここらあたりにも多くは見かけぬ高きをはきて、朝湯の帰りに首筋白々と手拭てぬぐひさげたる立姿を
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この身は、何とも知れぬ人の俤にあくがれ出て、鳥にもならずに、こゝにかうして居る。せめて蝶鳥てふとりにでもなれば、ひら/\と空に舞ひのぼつて、あの山の頂に、俤をつきとめに行けるものを——。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)