しらみ)” の例文
風呂へはいることはないし、顔も洗わない。しらみだらけのみだらけである。もちろん親類もなく遊ぶ者もいない、というのがお繁であった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「その山宮泉は昔、芥川龍之介論で『歯車』のことを書いていて、人間の脳の襞を無数のしらみが喰ひ荒らしてゆく幻想をとりあげてゐるのだが……」
二つの死 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
云わば少しばかり金が出来たからとて公債を買って置こうなどという、そんなしらみッたかりの魂魄たましいとは魂魄が違う。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
横堀はしらみをわかせていそうだし、起せば家人が嫌がる前に横堀が恐縮するだろう。見栄坊の男だった。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
なぜ死期しごの近い病人の体をしらみが離れるように、あの女は離れないだろう。それに今の飾磨屋の性質はどうだ。傍観者ではないか。傍観者は女の好んでえらぶ相手ではない。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何ぞ其言の飄逸へういつとして捕捉すべからざるが如くなるや。世の礼法君子はしらみの褌に処する如しと曰ひし阮籍もけだし斯の如きに過ぎざりしなるべし、梁川星巌芭蕉を詠じて曰く
文字を覚えてから急にしらみるのが下手へたになった者、眼にほこりが余計はいるようになった者、今まで良く見えた空のわしの姿が見えなくなった者、空の色が以前ほどあおくなくなったという者などが
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
すると運悪くその胴着にしらみがたかりました。友達はちょうどさいわいとでも思ったのでしょう、評判の胴着をぐるぐると丸めて、散歩に出たついでに、根津ねづの大きな泥溝どぶの中へててしまいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それには似ずて、しらみ等は
けれども毒飼は最もケチビンタな、しらみッたかりの、クスブリ魂の、きたない奸人かんじん小人妬婦とふ悪婦の為すことで、人間の考え出したことの中で最も醜悪卑劣の事である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
美津子はしらみを湧かしていてポリ/\頭をかいていたが、その手が吃驚するほど白かった。
放浪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
いつもどこかの海苔のりき小屋か、納屋なやか、ひび置き場に寝る。風呂ふろへはいることはないし、顔も洗わない。しらみだらけのみだらけである。もちろん親類もなく遊ぶ者もいない、というのがお繁であった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
南京虫、しらみの王の
ろくな店も工場も持って居ぬ奴が小やかましい説教沙汰ばかりを店員や職工に下して、おのれは坐蒲団ざぶとんの上で煙草をふかしながら好い事を仕たがる如きしらみッたかりとは丸で段が違う。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)