蘿月らげつ)” の例文
「だから、はないツちやない。」と蘿月らげつは軽くにぎこぶし膝頭ひざがしらをたゝいた。おとよ長吉ちやうきちとおいとのことがたゞなんとなしに心配でならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
長吉ちやうきち蘿月らげつ伯父をぢさんのつたやうに、あの時分じぶんから三味線しやみせん稽古けいこしたなら、今頃いまごろかく一人前いちにんまへの芸人になつてゐたに違ひない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
成程なるほど。」と蘿月らげつ頷付うなづいて、「さういふ事なら打捨うつちやつても置けまい。もう何年になるかな、親爺おやぢが死んでから………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お豊は途法とほうに暮れた結果、兄の蘿月らげつに相談して見るよりほかに仕様がないと思ったのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう返らない幾年か前蘿月らげつの伯父につれられお糸も一所いっしょとりいちへ行った事があった……毎年まいとしその日の事を思い出す頃からもなく、今年も去年と同じような寒い十二月がやって来るのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
午後ひるすぎから亀井戸かめいど竜眼寺りゅうがんじの書院で俳諧はいかい運座うんざがあるというので、蘿月らげつはその日の午前に訪ねて来た長吉と茶漬ちゃづけをすましたのち小梅こうめ住居すまいから押上おしあげ堀割ほりわり柳島やなぎしまの方へと連れだって話しながら歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)