藪入やぶいり)” の例文
同類だ、共謀ぐるだ、同罪だよ。おい、芸者を何だと思っている。藪入やぶいりに新橋を見た素丁稚すでっちのように難有ありがたいもんだと思っているのか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娑婆しゃばの人間は日曜日だの暑中休暇だのと一年中には沢山な休みがある。いくら忙しい奉公人でも盆と正月に藪入やぶいりがあるけれども私たちばかりは一年中休みなしだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
藪入やぶいりなどは勿論ここらの一角いっかくとは没交渉で、新宿行の電車が満員の札をかけて忙がしそうに走るのを見て、太宗寺たいそうじ御閻魔様おえんまさまの御繁昌をひそかに占うに過ぎません。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
現に関西では盆正月の藪入やぶいりがゲンゾ、古い奉公人の旧主訪問がまたゲンゾである。是に敬語をかぶせてオゲンゾウというのも、目上の人への対面のことでしかない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
弟利助は日本橋辺の穀問屋こくどんやへ、共に年期奉公の身であるが、いずれこの二人ふたりの若者も喜び勇んで藪入やぶいりの日を送りに帰って来るだろうとのうわさで持ち切る騒ぎだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まだ明治十何年と云う頃には江戸の町家の習慣律が惰力を持っていたので、市中から市中へ奉公に上がっていても、藪入やぶいりの日の外には容易に内へは帰られぬことに極まっていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
町家の小僧奉公でも、年に二度の藪入やぶいりがございます。それが親許へ歸してくれないばかりでなく、此方から逢ひに行つても、何んとかかんとか言つて、どうしても逢はして下さいません
苧殻おがらのかわりに麦からで手軽に迎火むかえびいて、それでも盆だけに墓地も家内やうちも可なり賑合にぎわい、緋の袈裟けさをかけた坊さんや、仕着せの浴衣単衣で藪入やぶいりに行く奉公男女の影や、断続だんぞくして来る物貰いや
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
藪入やぶいりや母にいはねばならぬこと
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
藪入やぶいりの夢や小豆あずきの煮えるうち
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
藪入やぶいりるやひとりの親のそば
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
安兵衛 とんだ藪入やぶいりだ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
藪入やぶいりの寝るやひとりの親の側
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
藪入やぶいりの寝るやひとりの親のそば
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
藪入やぶいりの田舎の月の明るさよ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)