かん)” の例文
「どうじゃ範宴、きょうは、わしにいてこないか」陽が暖かくて、梅花うめかんばしい日であった。庭さきでもひろうように、慈円はかろく彼にすすめる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たらの木の心から製したもそろの酒は、その傍の酒瓮みわの中で、かんばしい香気を立ててまだ波々とゆらいでいた。若者は片手で粟をつまむと、「卑弥呼。」と一言呟いた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は又、その家の周囲まはりかんばしいにほひを放ついろいろの草花を植えた。彼の部屋の、書卓テーブルゑてある窓へ、葡萄棚ぶだうだなの葉蔭をれる月の光がちら/\とし込んだ。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
がそれから三日目、江戸の初夏が次第にかんばしくなったころ、お北は顔色変えて飛込んで来ました。
がそれから三日目、江戸の初夏が次第にかんばしくなつた頃、お北は顏色變へて飛込んで來ました。
昏々こんこん、一夜は過ぎている。翌日の夕方だったに違いない。気づいてみると、は丁重に寝かされていた。肌着衣服、すべて真新らしい。口中には神気かんばしい薬の香がしきりにする。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)