苫小牧とまこまい)” の例文
あれほど希望に全身を刺戟しげきされてゐた處女作しよぢよさくはとうとう一枚も書き上らないままに、苫小牧とまこまい滯在たいざいの一月ほどは空しく過ぎてしまつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
室蘭線の停車場苫小牧とまこまいで料理店をやつてゐるかみさんだが、その稼業かげふでは儲けが少いので、人のやらない事業をと思つて、そこに考へがついたのださうだ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
おととしの夏休みに、北海道のお姉さんの家へ遊びに行ったときのことを思い出す。苫小牧とまこまいのお姉さんの家は、海岸に近いゆえか、始終お魚の臭いがしていた。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
苫小牧とまこまい製紙、東洋高圧、帝国製麻、日本製鋼、北海道電力といった優良株を、北海道に工場があるという理由で、絶対に買わない男がいるという話をとたんに思い浮べたからである。
津軽海峡つがるかいきょう、トラピスト、函館はこだて五稜郭ごりょうかく、えぞ富士ふじ白樺しらかば小樽おたる、札幌の大学、麦酒ビール会社、博物館はくぶつかん、デンマーク人の農場のうじょう苫小牧とまこまい白老しらおいのアイヌ部落ぶらく室蘭むろらん、ああぼくかぞえただけでむねおどる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ニセコの山頂でこのやくっていたのとほとんど同じ頃、苫小牧とまこまいの飛行場でも、悲しむべき事件が起っていた。戦争中私たちは冬のニセコ山頂の研究と並行に、夏は海霧の研究に没頭していたのである。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
希望にかはる失望、樂しさにかはる寂しさ、さうした氣持を抱いて、私は九月十日過ぎに妹を伴ひながら苫小牧とまこまいをあとにした。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
纖維のあるものなら、大抵な木は——製造法さへ發達して行けば——紙にされてしまふのだから、その代りに、苫小牧とまこまいの王子や釧路の富士へ少しぼろを押し賣りしてもよからう。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
苫小牧とまこまいは製紙工場のあるだけで知られた寂しい町で、夏ながら單調な海岸の眺めも灰色で、何となく憂欝いううつだつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)