腋下えきか)” の例文
ヴァイオリンを温かに右の腋下えきかまもりたる演奏者は、ぐるりと戸側とぎわたいめぐらして、薄紅葉うすもみじを点じたる裾模様すそもようを台上に動かして来る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なお妾と互い違いにして妾の両足りょうそくをば自分の両腋下えきかはさみ、如何いかなる寒気かんきもこのすきに入ることなからしめたる、その真心の有りがたさ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
絶命してから、まだ一時間と経っていないことは、屍体の腋下えきかにのこるま温い体温や、帆村の参考談から、証明された。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
直径百四十尺、深さ三十五尺のグロテスクな大きな穴で、夏も氷が張りつめ、涼風が腋下えきかかすめる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
あらけなくかきあくれば、綾子は顔をあかめつつ、悪汗おかん津々しんしん腋下えきかきて、あれよあれよともだえたまう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何だか不安で、自分の腋下えきかに汗を掻くやうな気持だつた。そして身体からだも不安定だつた。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
涼風腋下えきかの快感を覚えることであろう。
舌上ぜつじょう竜泉りゅうせんなく、腋下えきか清風せいふうしょうぜざるも、歯根しこん狂臭きょうしゅうあり、筋頭きんとう瘋味ふうみあるをいかんせん。いよいよ大変だ。ことによるともうすでに立派な患者になっているのではないかしらん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
腋下えきかさつと冷汗流れて、襦袢じゆばんせなはしとゞ濡れたり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)