むね)” の例文
額を破りむねを傷つけるのをはばからずに敢て突進するの勇気を欠くものは、皆此の関所前で歩を横にしてぶらぶらしてしまうのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
谷間の途極ゆきとまりにてかめに落たるねずみのごとくいかんともせんすべなく惘然ばうぜんとしてむねせまり、いかゞせんといふ思案しあんさヘ出ざりき。
日本でも大安寺の勝業しょうごう上人が水観をじょうじた時同じく石を投げ入れられて、これはむねが痛んだという談があって、何も希有けうな談でも何でもない。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こは何事なにごとやらんとむねもをどりてふしたる一間ひとまをはせいでければ、いへあるじ両手りやうてものさげ、水あがり也とく/\うら掘揚ほりあげ立退たちのき給へ、といひすてゝ持たる物を二階へはこびゆく。
自ら責めるよりほかは無かったが、自ら責めるばかりで済むことでは無い、という思が直にむねの奥からせまのぼって
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
愕然びつくりしてむねさけるやう也しがにげるに道なく、とても命のきはなりしぬいきるも神仏にまかすべしと覚悟かくごをきはめ、いかに熊どのわしたきゞとりに来り谷へおちたるもの也、かへるには道がなくいきをるにはくひ物がなし
事情が何も分った訳ではないが、女の魂魄たましいとする鏡を売ろうとするに臨みての女の心や其事情がまざまざとむねに浮んで来て、定基は闇然として眼をつむって打仰いで、堪えがたい哀れを催した。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)