肥溜こえだめ)” の例文
どうかすると風呂場が肥溜こえだめと一つになっている。しかし田舎にはまた人工的の風呂の代りに美しい自然に囲まれた日光浴場がある。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「むむ肥溜こえだめ行水ぎょうずいか。あの手を一ぺんご馳走申しておきゃあ、どんな奴も毒ッ気を抜かれてしまうからな。よし、やろう。みんなぬかるな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「食えませんけれど、釣れないよりは宜いと見えて持って来ます。しかし彼奴あいつは鶏が食っても死にますから、肥溜こえだめてるより外ありません」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
くずれかかった煉瓦れんが肥溜こえだめの中にはビールのようにあわがもりあがっています。さあ順番じゅんばんおけもう。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
肥溜こえだめ桶があった。いたちの死骸がりんの色にただれて泡をかぶっていた。桶杓ひしゃくんだ襤褸ぼろの浮島に刺さって居た。陀堀多はその柄を取上げた。あたり四方へ力一ぱい撒いた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうして此頃では、むッといきれの立つ堆肥たいひの小山や、肥溜こえだめ一ぱいにうずたかふくれ上る青黒い下肥を見ると、彼は其処に千町田ちまちだ垂穂たりほを眺むる心地して、快然と豊かな気もちになるのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それを合図に、眼くばせわしたごろつき連は、智深をとり囲んで、なんのかんのと、次第に彼を大きな肥溜こえだめのあるあぜのはずれへ誘いだした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしたちは黄いろの実習服じっしゅうふくて、くずれかかった煉瓦れんが肥溜こえだめのとこへあつまりました。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)