股倉またぐら)” の例文
脇差を引つこ拔いて、武士と渡り合ふのを不穩當と思つたか、右手に掴んだ振分ふりわけの荷、——それを入口を塞いだ大男の股倉またぐらへパツと抛つたのです。
陰は男女に通じ用いられた語で、今ならば股倉またぐらと言うくらいの意味であろう。すなわち二つの尾根のある山である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「先生!」と彼は叫んで股倉またぐらを押えた。「おしっこ、よう、ちえっちえっちえ……まかれてしまうよう!」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
三十二銭這入はいっている。白い眼は久留米絣くるめがすりの上からこの蟇口をねらったまま、木綿もめん兵児帯へこおびを乗り越してやっと股倉またぐらへ出た。股倉から下にあるものは空脛からすねばかりだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一人、膝頭ひざがしらと向うずね露出むきだした間にうずたかい、蜜柑の皮やら実まじりに、股倉またぐらへ押込みながら、苦い顔色がんしょく
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この騒ぎで、駒井能登守の連台を担ぎかけた人足も、与力同心の股倉またぐらへ頭を突っ込んだ人足も、みんなそれをやめてしまって、米友の方へバラバラと飛んで行きました。
女房に茶を汲んで出し、善太に賭事を教へ、金を股倉またぐらへくぐらするなどの仕草は場当りなれど、本文の権太ももどりにならぬまではごく安敵やすがたきなれば深く咎むるにも及ばざるべし。
とたんに杉本は一足身体を退き子供のまじめくさった質問を避けようとした。すると元木武夫はくわっと逆上し、どがんと教師の股倉またぐらめがけて殴りつけてきた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
方寸をかさまにして見ると寸方となるところに愛嬌あいきょうがある。あま橋立はしだて股倉またぐらからのぞいて見るとまた格別なおもむきが出る。セクスピヤも千古万古セクスピヤではつまらない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
棄て置けば狐狸こり棲処すみか、さもないまでも乞食の宿、焚火たきびの火沙汰ざたも不用心、給金出しても人は住まず、持余しものになるのを見済まし、立腐れの柱を根こぎに、瓦屋根を踏倒して、股倉またぐら掻込かいこむ算段
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敷居の上へ足を乗せて、こっちを向いて立った股倉またぐらから、ランプの灯だけが細長く出て来る。ランプの位置がいつのにか低くなったと見える。長蔵さんの顔は無論よく分らない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)