結立ゆいたて)” の例文
婦人おんな右手めて差伸さしのばして、結立ゆいたて一筋ひとすじも乱れない、お辻の高島田を無手むずつかんで、づツと立つた。手荒さ、はげしさ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吹き荒れる風と雨とに、結立ゆいたてまげにかけた銀糸の乱れるのが、いたいたしく見えたので、わたくしは傘をさし出して、「おれは洋服だからかまわない。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しまいには絹手帕ハンケチも鼻をんで捨て、香水は惜気もなく御紅閨おねまに振掛け、気に入らぬ髪は結立ゆいたて掻乱かきこわして二度も三度も結わせ、夜食好みをなさるようになって、糠味噌ぬかみその新漬に花鰹はながつおをかけさせ
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なかなかいい容貌きりょうである。鼻筋の通った円顔は白粉焼おしろいやけがしているが、結立ゆいたての島田の生際はえぎわもまだ抜上ぬけあがってはいない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
駒下駄のちょこちょこあるきに、石段下、その呉羽の神の鳥居の蔭から、桃割ももわれぬれた結立ゆいたてで、緋鹿子ひがのこ角絞つのしぼり。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぶやきつつ縁側にでたるは、年紀としの頃十六七、色白の丸ぽちゃにて可愛らしきむすめ、髪は結立ゆいたて銀杏返いちょうがえし、綿銘仙の綿入を着て唐縮緬とうちりめんの帯御太鼓むすび、小間使といふ風なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)