紅葉山人こうようさんじん)” の例文
昔、徳田秋声とくだしゅうせい老人が私にいったことがあった、「紅葉山人こうようさんじんが生きていたら、君はさぞ紅葉さんに可愛がられたことだろうな」と。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これで思い出すのは、昔紅葉山人こうようさんじんの書いた何かの小品の中に、物好きな父親がその女の子におさるという名をつけた話があったように思う。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「行違ふ舞子の顔やおぼろ月」という紅葉山人こうようさんじんの句を引いて、新京極しんきょうごくから三条の橋の上の夜のにぎわいをおもしろく語った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
柳之助りゅうのすけ亡妻ぼうさいの墓に雨がしょぼ/\降って居たと葉山はやまに語るくだりを読むと、青山あおやま墓地ぼちにある春日かすが燈籠とうろうの立った紅葉山人こうようさんじんの墓が、と眼の前にあらわれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
即ちゲーテが作『若きウェルテルのうれい』、シャトオブリヤンが作『ルネエ』のたぐいなり。わが国にては紅葉山人こうようさんじんが『青葡萄あおぶどう』なぞをやその権輿けんよとすべきか。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三十男の遊び盛りを今が世の絶頂つじと誰れが目にも思われる気楽そうな独身ひとりみ老婢ばあや一人を使っての生活くらしむきはそれこそ紅葉山人こうようさんじんの小説の中にでもありそうな話で
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
例えば鏡花きょうか氏が紅葉山人こうようさんじんの書生であったような形式をとるか、ドストエフスキイ式に水と米、ベリンスキイが現われるまで待つか、なにかしたいと思っています。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
誌上に誰やらの作った明治小説史と、紅葉山人こうようさんじんの短篇小説『取舵』などの掲載せられていた事を記憶している。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明和年代に南畝なんぽが出で、天明年代に京伝きょうでん、文化文政に三馬さんば春水しゅんすい、天保に寺門静軒てらかどせいけん、幕末には魯文ろぶん、維新後には服部撫松はっとりぶしょう三木愛花みきあいかが現れ、明治廿年頃から紅葉山人こうようさんじんが出た。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一葉いちよう女史の『たけくらべ』には「ぞかし」という語が幾個あるかと数え出した事もあれば、紅葉山人こうようさんじんの諸作の中より同一の警句の再三重用せられているものを捜し出した事もあった。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)