紅入べにいり)” の例文
信如は田町の姉のもとへ、長吉は我家のかたへと行別れるに思ひのとどまる紅入べにいりの友仙は可憐いぢらしき姿を空しく格子門の外にととどめぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「はい、何を差上げます。」と言う声が沈んで、泣いていたらしい片一方の目を、俯向けに、紅入べにいり友染ゆうぜんの裏が浅葱あさぎの袖口で、ひったりおさえた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元園町の女中に遣らうと思つて四十五銭と云ふ紅入べにいりのを一かけ買つたが、外にも何か買はせようとする熱誠ねつせいと云ふものが主人と小僧さんの顔に満ちて居るので
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
後刻のち學校がくかうはうぜの約束やくそく信如しんによ田町たまちあねのもとへ、長吉ちようきち我家わがやかたへと行別ゆきわかれるにおもひのとゞまる紅入べにいり友仙ゆうぜん可憐いぢらしき姿すがたむなしく格子門かうしもんそとにととゞめぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
薄ゴオトでましたはいいが、すそをからげて、長襦袢ながじゅばん紅入べにいりを、何と、ひきさばいたように、赤うでの大蟹が、籠の目を睨んで、爪を突張つっぱる……襟もとからは、湯上りの乳ほどに
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょっと様子を、とふすまを抜けるように、白足袋で、すそ紅入べにいりに二階を下りた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)