糞尿ふんにょう)” の例文
今日から申しますると、余程奇態きたいな事でありますが、昔は実際そうでありました。したがって農業は神聖で、農民の肥料とする糞尿ふんにょうは穢れとせぬ。
一つの法則を出ない、即ち、田を河の如くに渡るとか、糞尿ふんにょうのために入って風呂ふろをつかうような事をするとか、馬糞を牡丹餅ぼたもちとして食うとか、皆同一規である。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
そういう兼吉かねきちは、もはやをすませて、おぼれいた掃除そうじにかかったのだ。うまやぼうきに力を入れ、糞尿ふんにょう相混あいこんじた汚物おぶつを下へ下へとはきおろしてきたのである。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
叱られた百姓は黙って其糞尿ふんにょう掃除そうじして、それを肥料に穀物蔬菜を作っては、また東京に持って往って東京人を養う。不浄を以て浄を作り、廃物を以て生命を造る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかるにシーザーの下にあるローマの元老院においては、発する糞尿ふんにょうの匂いもわしの巣のそれである。
これらの疲労した川筋を通して一年に七千四百万貫の塵芥じんかいを吹き、六十万ごく糞尿ふんにょうて、さらに八億立方しゃくにも余る汚水を吐き出す此の巨大な怪獣の皮腺ひせんかられる垢脂こうしに過ぎないのだから。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
糞尿ふんにょうを分析すれば飲食した物の何であったかはこれを知ることが出来るが、食った刹那せつなの香味に至っては、これを語って人をして垂涎すいぜん三尺たらしむるには、優れたる弁舌が入用になるわけである。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ波羅門ばらもん刹帝利せっていりだけは便器の中に用を足し、特に足を労することをしない。しかしこの便器の中の糞尿ふんにょうもどうにか始末しまつをつけなければならぬ。その始末をつけるのが除糞人じょふんにんと呼ばれる人々である。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山や水は糞尿ふんにょうであり、風は呼吸であり、火はその体温であり、一切の生物無生物は彼の生むところと説く、シバ神崇拝に類して精力を愛するこの原始の宗教が、コーランを左手に剣を右手に、そして
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
兵器廠へいきしょうの床の糞尿ふんにょうのうえに
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
下には半ばひざを没する泥があり、糞尿ふんにょうは足の上に流れ、疲労のために骨も裂け、腰と膝とは力を失い、休息するためには両手で鎖にぶら下がり、立ったままでなければ眠ることもできず
園芸を好んだので、糞尿ふんにょうを格別忌むでもいやしむでもなかったが、不浄取りの人達を糞尿をとってもらう以外没交渉のやからとして居た。来て其人達の中に住めば、此処ここうれかなしい人生である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
台風ではなくて硫化水素であり、大洋ではなくて糞尿ふんにょうである。
糞尿ふんにょうにも道あり、蛇も菩提ぼだいに導く善智識であらねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)