篠笹しのざさ)” の例文
山清水やましみずがしとしととこみち薬研やげんの底のようで、両側の篠笹しのざさまたいで通るなど、ものの小半道こはんみち踏分ふみわけて参りますと、其処そこまでが一峰ひとみねで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏の薮から、篠笹しのざさを切ってきて、それに母の裁縫道具の中から縫糸を持ち出して道糸をこしらえては、鈎を結んで出て行った。
小伜の釣り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
庭に篠笹しのざさの植込があってかすかにゆれているのを、私は喋る気がしなくなって、実に長いこと睨んでいた。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
流れの向う岸は一帯に篠笹しのざさに横竹をあしらって生牆いけがきにしてあります。そのまん中へ向けて架け渡した流れの上の板橋は先生の家の出入口専用の橋らしくあります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
取巻いたほりの跡には、深く篠笹しのざさが繁つて、時には雨後の水が黒く光つてたゝへられてゐるのがのぞかれた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「えゝ、しかし昨日は鞍掛くらかけでまるで一面の篠笹しのざさ、とてもふもよぢるもできませんでした。」
柳沢 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
如月きさらぎは名ばかりで霜柱は心まで氷らせるように土をもちあげ、軒端のきばに釣った栗山桶くりやまおけからは冷たそうな氷柱つららがさがっている。がけ篠笹しのざさにからむ草の赤い実をあさりながら小禽ことりさえずっている。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)