筒口つつぐち)” の例文
八弥は、畸形きけい爬虫類はちゅうるいのように、ひじ、膝、肩までを地にりつけたまま、眼だけを相手の筒口つつぐちに向けて、ジリジリと前へ迫り出した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて引金ひきがねを引きたれども火うつらず。胸騒むなさわぎして銃を検せしに、筒口つつぐちより手元てもとのところまでいつのまにかことごとく土をつめてありたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二十面相は、にくにくしく言いながら、明智の背中にピストルの筒口つつぐちをおしつけて、洞くつの奥へ奥へと、連れていくのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
新九郎はスマトラ人の水主かこを呼びあつめると、前敷の大筒のところへ走って行って弾丸たま込めにかかったが、生憎と、弾丸が筒口つつぐちより大きくて、この急場には間にあわなかった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
青い煙が、まだ筒口つつぐちから細く出ていました。
ごん狐 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
かれの狡獪こうかいなそらおどしは効果こうかがなかった。火縄ひなわはいまの格闘かくとうでふみけされてしまったので、筒口つつぐちをむけてもにわかの役には立たないのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村瀬という男は、そういって、ピストルの筒口つつぐちをあげたりさげたりしながら、主人の顔を見つめるのでした。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あとから警視庁鑑識課の医者がしらべましたが、南田は小型ピストルの筒口つつぐちを口の中へ入れて発射したのです。後頭部が割れて、ひどい状態になっていました。
妻に失恋した男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はやくもそれと知った丹羽昌仙にわしょうせんが、望楼ぼうろうのうえから南蛮銃なんばんじゅう筒口つつぐちをそろえて、はげしく火蓋ひぶたを切ってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明智の右手に持ったピストルの筒口つつぐちが、その虎の背中にグッとくいいっています。いうことを聞かねば、いつでもピストルの引きがねをひくぞというわけです。
虎の牙 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その上から、銀象嵌ぎんぞうがん短銃たんづつをとってかまえ、いましも、三度目の筒口つつぐちに、伊那丸の姿をねらっていたが、龍太郎が近づいたのをみると、オオ! とそのつつ先を向けかえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ピストルの筒口つつぐちから、パッと火を吹きました。発射したのです。しかし、ごうごうと走る汽車の音にけされて、ピストルの音は、ほとんど、聞こえないくらいです。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ここへ並んで、筒口つつぐちを揃えろ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カーテンのあわせめから、ピストルの筒口つつぐちが、こちらをにらんでいるのです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒い運転手が、片言のような、あやしげな日本語でどなったかと思うと、ふたりのインド人の手が、ニューッとうしろにのびて、二丁のピストルの筒口つつぐちが、小林君と緑ちゃんの胸をねらいました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自動車ポンプのエンジンが動きだし、消防署員はホースの筒口つつぐちをとって身がまえました。ホースからはおそろしい音をたてて、水がほとばしり、はるかの空の怪物は真っ白な水しぶきに包まれました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)