空車あきぐるま)” の例文
霧を破って、時々空車あきぐるまのヘッド・ライトが眼を射たけれど、直ぐ呼びとめる気にはならなかった。彼は昂奮していたのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
パトラッシュは、力なく空車あきぐるまをひいて行きます。誰だって、人情のないものはありませんが、コゼツの旦那の気にさわるのをおそれたからでした。
たちま荷車にぐるまりてきはじめた——これがまた手取てつとばやことには、どこかそこらに空車あきぐるまつけて、賃貸ちんがしをしてくれませんかとくと、はらつた親仁おやぢ
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老婆の、ふ、ふ、ふと云うような笑声があざけるように聞えた。外へ出たところで空車あきぐるまが来た。彼はまずその事で旅館やどやへ往って朝の食事をしてから会社へ往こうと思った。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、しばらくそうしていても、この問屋とんやばかり並んだ横町よこちょうには、人力車じんりきしゃ一台曲らなかった。たまに自動車が来たと思えば、それは空車あきぐるまの札を出した、泥にまみれているタクシイだった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「よかつたら、車にのりなされや。空車あきぐるまだで、ええに。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
アントワープの町の人々はみないじらしがって、パン切れにスープをそえて、持ち出して来てくれるおかみさんや、かえりの空車あきぐるまの中へたきぎの束を入れてくれる人などあらわれました。
それでは父親が帰ったであろうかと思ったが、帰って来れば空車あきぐるまをがたがたといて来るのが例になっているし、それに小供を頼んであった礼ぐらいを云うはずであるから、父親でないことは判っている。
車屋の小供 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)