稼業しょうばい)” の例文
稼業しょうばいのために若い日のすべてを犠牲にして来たとでもいうのかこの年齢になるまで独身の、まあ、ちょっと偏屈なところのある人物。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
四十がらみの、相撲のようにふとった主人が、年頃の娘たちと、わたしより一つ二つ下のいたずらな男の子とを相手に稼業しょうばいしていた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
宴会の席ではやはり稼業しょうばい大事とつとめて、一人で座敷をさらって行かねばすまぬ、そんな気性はめったに失われるものではなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
村萩 なにしろ稼業しょうばいになりませんからね。それにかえでさんは私なんかには何も打ち明けないで、内緒にばかりしているんですからね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
お前さんは、女という女を、片っぱしからだましてまわるのが、稼業しょうばいなんだねえ。くやしいのを通りこして、あいた口がふさがらないよ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お前さんの姉様あねさん豊志賀さんが来てね、たった一人の妹でございますから大事に思うが、こんな稼業しょうばいをして居り、うちも離れているから看病も届きませんでしたが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いくら、稼業しょうばいが稼業でも、そう永く、水の底にゃつづかねえ。それに、生き物をかかえているんだ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船頭の三吉は、稼業しょうばい柄にもなく、水に落ちて死んだというだけのことですが、野幇間のだいこの七平の死骸には、背中からいた傷が一つ、水にさらされて、凄まじい口を開いております。
茂子や小妻がああした残酷な死にようをしないで生き残っていたら、どれほどこの不景気なこの稼業しょうばいの暇を悦んだか知れまい。——悦ぶであろうと思われる二人はすでに死んでしまった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「もう稼業しょうばいをお始めかい。馬鹿に手廻しがいいじゃないか」
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あしなしに稼業しょうばいをしている女と遊ぼうとするのは虫がよすぎる。ほかの客を粗末にして困ってしまう。それに浅香も浅香だって。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
なにぶん、この掛け茶屋などと申す稼業しょうばいは、人の口が多うございまして、いろいろとまた、なが年小耳にはさんでおりまするで
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若宮のおやじやおふくろのあゝ若宮を大切にしたのはつまりは猿廻しが猿を大切にする……手めえたちの稼業しょうばい道具を大切にするのと一つだったんだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
苦労とはこのことかとさすがにしんみりしたが、宴会の席ではやはり稼業しょうばい大事とつとめて、一人で座敷を浚って行かねばすまぬ、そんな気性はめったに失われなかった。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「笑いおるな、そろそろ参るぞ。よいか。ここにひとり、白髪しらがあたまの、他人ひとの頭痛を苦に病むことを稼業しょうばいにしておるおやじがおると思え」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それも堅気の上りとか何とかいうなら仕方がねえ、手めえだって芸妓げいしゃをしているんじゃァねえか。——うそにも愛嬌稼業しょうばいをしているんじゃァねえか。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そのためにレディとの交際が出来難く、触れ合う女性は喫茶ガールや、ダンサーや、すべて水稼業しょうばいに近い雰囲気のものになるということは嘆くべきことだ。
学生と生活:――恋愛―― (新字新仮名) / 倉田百三(著)
……一つには、引手茶屋なんて稼業しょうばいは自分一代のもので、いつまでやってるものでもなければ、また、いつまでやって行けるものでもないと思ってたらしいのね。
三の酉 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
鬼草おにそうというのが、今宵人手にかかって非業ひごうの死を遂げた草加屋伊兵衛の綽名だった。鬼というくらいだから、その稼業しょうばいも人柄もおよそは推量がつこうというもの。
玳瑁たいまいの櫛を出して問い詰めると、辰はすぐさま頭を掻いて、じつは誠に申訳ないが、年の暮れのある晩稼業しょうばい帰途かえりに、筋交すじかい御門の青山下野守しもつけのかみ様の邸横で拾ったのだが
どこへ行ってもあんまりみかけない稼業しょうばいの刷毛屋があり、その隣に、ねぼけたような床屋があり、その一二けんさきの隣に長唄の師匠があって、癇高い三味線の音を
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
どうして噺とその噺の背景になっている「時代」との関係についてそうも無関心だろう? 自分で自分の稼業しょうばいものの箔をはがしているのがいまの其可哀想な君たちだ……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
羅宇直らうなおしの稼業しょうばいに出られないのは、むろんのこと……なによりすきな、というよりも、イヤ、それはもう第一の本能といっていいほど、ひまさえあれば手にせずにはいられない馬の彫刻にも
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かの女の足音の階子段の下へ消えて行くのを聞きながら掻巻かいまきのかげで密にかれはこういった。——柳橋で稼業しょうばいしていた時分のかの女のすがたがはッきりかれのまえに返って来た。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
宗七とともに恋慕流しの三味線を引いて、街から街と流し歩くのが稼業しょうばいで。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこは稼業しょうばい、こいつあおかしいぞ、と、三次、早くも気を締めた。
「うむ、いい稼業しょうばいをしてきたぞ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まことに尋常でない稼業しょうばい
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)