秦皮とねりこ)” の例文
見ると、ほそ長い秦皮とねりこの枝が二つに割れていた、そして彼の足がそこに横になって眠っていた人の真しろい手を踏んでいたのだった。
約束 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
(彼は眼は悪くないのであるが、いつ頃からか折々伊達だてに色眼鏡を掛ける癖が附いていた)あの秦皮とねりこのステッキをいた姿がぬっと現れた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは秦皮とねりこの木であったが、それと向き合って一本の栗の木が立っていた。皮がはがれたために弱っていて、繃帯ほうたいとして亜鉛の板が打ち付けてあった。
ヘイ、お富士山はあれ、あっこに秦皮とねりこの森があります。ちょうどあっこらにめいます。ヘイ。こっから東の方角でございます。ヘイ。あの村木立むらこだちでございます。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
オリヴィエは秦皮とねりこの枝の間に登って、不思議な話を読みながら日を過ごした。愉快な神話、ムゼウスやオールノア夫人の小話、千一夜物語、旅行小説、などを読んだ。
秦皮とねりこのステッキで其枝を掻きよせて巣の中を覗いたら、まだ羽も生えてない、目ばかり大きな、茶色の雛が四五羽、無氣味にうじようじよしてゐた。親鳥はもう逃げた跡。
雨後 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
田は植ゑてうつりよろしき秦皮とねりこの若葉も過ぎぬ五四本いつよもとづつ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
山より取りし秦皮とねりこの大槍、——こなた左右さうの手に
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
秦皮とねりこの、眞砂まさご、いさごの、森の小路よ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
幸子が降りて行くと、もう奥畑は玄関の土間に立って、きんの金具の光っている秦皮とねりこのステッキをいていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
数本の松の木にちょっと一もとすすきをあしらっただけの、生籬いけがきもなんにもない、瀟洒しょうしゃな庭を少し恨めしそうに見やりながら、いつまでも秦皮とねりこのステッキで砂を掘じっていた。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし彼女がその話を通して見た面影は、秦皮とねりこの木陰に居眠ってる老夫婦のそれではなかった。友の内気な熱烈な夢想であった。そして彼女の心は愛でいっぱいになった。
田は植ゑてうつりよろしき秦皮とねりこの若葉も過ぎぬ五四本いつよもとづつ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
秦皮とねりこの、真砂まさご、いさごの、森の小路よ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
パナマ帽に瀟洒しょうしゃとした紺背広を着、秦皮とねりこのステッキにコンタックスを提げて、こんな時にこんな風をしてなぐられはしまいかと思うような身なりをしていたそうであるが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼が着いたとき、彼らは庭に出ていて、夏の暑い午後を、丸がさのように茂った秦皮とねりこの下でうつらうつらしていた。手を取り合って青葉だなの下で居眠ってるベックリンの老夫婦に似ていた。
もつれてやまぬ秦皮とねりこ陰影いんえいにこそひそみしか。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
秦皮とねりこや、赤楊はんのきみち
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かくてなほ声もなき秦皮とねりこよ、ひそに火ともり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
秦皮とねりこや、赤楊はんのきみち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
それか、に声もなき秦皮とねりこの森のひまより
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)