秘鑰ひやく)” の例文
宇宙を説明する秘鑰ひやくはこの自己にあるのである。物体に由りて精神を説明しようとするのはその本末を顛倒てんとうした者といわねばならぬ。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
恋愛は人世の秘鑰ひやくなり、恋愛ありて後人世あり、恋愛をき去りたらむには人生何の色味かあらむ、然るに尤も多く人世を観じ
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あの門——つまりこの事件に凄惨な光を注ぎ入れている、あの鍵孔のある門の事ですわ。そこに、黒死館永生の秘鑰ひやくがあるのです
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ある特点に砲兵を集中させることに、彼の勝利の秘鑰ひやくはあった。彼は敵将の戦略をあたかも一つの要塞ようさいのごとく取り扱い、そのすき間から攻撃した。
蒲衣子ほいし庵室あんしつは、変わった道場である。わずか四、五人しか弟子はいないが、彼らはいずれも師の歩みになろうて、自然の秘鑰ひやくを探究する者どもであった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
よろい隙間すきまを、魂の秘鑰ひやくたる欠点弱点を、たちまちのうちに見出し、秘訣ひけつを握ることを、よく知っていた。
恋愛は人生の秘鑰ひやくなり、恋愛ありて後、人世あり。恋愛をき去りたらむには人生何の色味しきみかあらむ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
我々の欲望或は要求はただにかくの如き説明しうべからざる直接経験の事実であるのみならず、かえって我々がこれに由って実在の真意を理解する秘鑰ひやくである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
彼は悲しめり、然り、彼は迷想の極にのぼりて、今は自殺の外に、万事を決し疑惑を解くものあらずなりぬ。然れども伯は誾冥ぎんめいなる迷想のうちより、生活の一秘鑰ひやくを覚りはじめたり。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ねえ如何どう、それがもしかしたら、この事件永生の秘鑰ひやくかも知れませんわ。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
すべて神聖なる宗教的思想の統御に帰する事あらば、恋愛のことを談ぜざるもよし、いやしくも恋愛が人生の一大秘鑰ひやくたる以上は、其素性の高潔なるところより出で、その成行の自然に近かるべきは
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)