禁闕きんけつ)” の例文
『医心方』は禁闕きんけつの秘本であった。それを正親町おおぎまち天皇がいだして典薬頭てんやくのかみ半井なからい通仙院つうせんいん瑞策ずいさくに賜わった。それからはよよ半井氏が護持していた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はかりをもって、兵を禁闕きんけつに入れ、帝を幽囚ゆうしゅうして、自分をもここへおびきよせたものでないとはいえない。
織田信長が今川を亡ぼし、佐〻木、浅井、朝倉をやりつけて、三好、松永のはいを料理し、上洛して、将軍をたすけ、禁闕きんけつに参った際は、天下皆鬼神の如くにこれを畏敬した。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また近く数年禁闕きんけつを守護して、朝廷に恪勤を尽した忠誠も、没却されてしまうばかりでなく、どんな厳罰に処せられて、当家の祭祀が絶えてしまうようなことがないとも限らない。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
新政府の処置挙動に不満をいだくものはもとより少なくない。こんな外国の侵入者がわが禁闕きんけつもとに至るのは許しがたいことだとして、攘夷の決行されないのを慷慨こうがいするものもある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
禁闕きんけつを守衛し、官用を弁理べんりし、京都、奈良、伏見ふしみの町奉行を管理し、また訴訟そしょう聴断ちょうだんし、兼ねて寺社の事を総掌そうしょうする、威権かく々たる役目であって、この時代の所司代は阿部伊予守あべいよのかみ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
郭汜は、自分の不覚の鬱憤ばらしに兵を率いて、禁闕きんけつへ侵入し、日頃気にくわない朝臣を斬り殺したり、また、後宮の美姫や女官を捕虜として、自分の陣地へ引っ立てた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長浜を撤去てっきょし、家族を姫路に移し、八月、宝寺城の工を起し——この間、京都政治所と山崎とのあいだを隔日に往来しつつ、あした禁闕きんけつに伏し、昼に市井を巡察し、夕べに庶政しょせいを見、答使とうしを発し
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)