研師とぎし)” の例文
何かのクサビになるだろうと、この間、研師とぎし大黒宗理の店さきで、そこにいた職人の道具箱からソッと一本かすめておいた品物だ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は児戯に類した言によっておのれを飾りはしない。もとより下層の者には、乞食や研師とぎしみじめなやつらには、何かがなくてはならない。
夏が過ぎ、水の澄み工合がきまると、町の諸方から刀研師とぎしが呼び出され、腰の物お手入れが始まりかけていた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
新刀ながら最近研師とぎしの手にかけたものだけに、どぎどぎしたその切尖きっさきから今にも生血なまちしたたりそうな気がして、われにもなく持っている手がぶるぶるとふるえた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
江戸彫刻師の随一人といわれたの高橋鳳雲の息子に高橋定次郎たかはしていじろうという人があって(この人は当時は研師とぎしであった。のちに至って私はこの人と始終往復して死んだ後のことまで世話をした)
それいつか、妾の愛刀をお身様に渡し、新九郎様の来国俊らいくにとしを妾が預って置いた。あれも、疾くに研師とぎしから手入れができて届いておりますわいの。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょう、露月町ろげつちぃう研師とぎしが、この間お渡しあそばした十振の刀のうち、祐定すけさだと、無銘と、二本だけを仕上げて参りました。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの板看板に本阿弥ほんあみ門流としてあったので、京出きょうで研師とぎしに違いないと思うと同時に、恐らく本阿弥家の職方しょくかた長屋の一門下であろうとも考えられ
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外には鍛冶のふいごや鎚音つちおともしていた。床場ゆかばの内では、弓の弦師つるし、具足の修理、くさずりの縫工ほうこう研師とぎし塗師ぬし革裁かわたち、柄巻つかまき、あらゆる部門の職人が見える。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまらぬ鈍刀なまくらばかりをお前の家では手がけていると見えるな。そういう研師とぎしの手にかけるのは心もとない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは研師とぎしの家であるから、誰の刀が預けられてあろうとも、べつだん奇とするには当らない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうです、無論弦之丞じゃありません、どこかこの辺の浜へ稼ぎに来ていた船大工の手間取てまとり。そいつが研師とぎしの宗理の手から、ぎ上がった二本の刀を受け取って帰って行きました」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「本阿弥門流とあるから、刀の研師とぎしであろう。——刀は武士のたましいというから」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嵐の夜に大分水にみておりますゆえ、御方様のお心づきでお出入りの研師とぎしに手入れにおやり遊ばしたまでのこと、その間のお差料さしりょうには、お部屋に置きましたものをどうぞお使い遊ばして下さりませ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)