わづら)” の例文
滝は、彼等の誰とも親しくなつてゐたが、彼等の方言が余りに滑らかで、極限されてゐたので、心をわづらはされることがなかつた。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
予後の経過もよかつたので、十月には店出ししようと再び準備に取りかゝりかけた時、悪いことに彼女は引き続いて眼をわづらつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「旦那様、亭主がながわづらひで食物たべものさへ咽喉を通らなくなつてります。可哀かあいさうだと思召おぼしめして、一度診てやつて下さいませ。」
長くわづらつて入院した折に附添になつたのが縁で、未亡人からすつかり頼りに思はれて、退院のあとも是非にとその大森の家に連れ帰られたのである。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
なほ、近所の人達の話によりますと、おきいちやんは、春からずつとわづらつてゐましたが、近頃になつて、どうにか治つたかと思ふと、こんどは伯母さんがわづらふやうになりました。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
やつてみて、やれなくはなかつた年頃になると、わづらひがちな身になつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
彼の細君は、二十幾つも齢の違ふ律気な人物だつたが、兼々秘かな病気をわづらつて居り、当時は娘の家から病院通ひに暮してゐるといふことであつた。
老猾抄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
水を持つて来て呉れ! などゝ彼の手をわづらはしたりされる毎に、彼は細君の何んな美しい友達を相手に踊つた時にも、脇腹を抱いて泳がせてやる時にも
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼は、孤りの部屋で、苦い顔をして煙草をきつし続けるばかりだつた。彼の思索は、如何したらこのわづらはしい夜昼を正当に取り返せるだらうか? の一つより他になかつた。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
加けに疳癪を起して荒々しく地面を引きずつたので、あちこちと破損の個所が大きく、どうやら小田原へ運んで残存者の手でもわづらはさぬ限りは手の配しやうもない無残な凧と化してしまつた。
山峡の凧 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
されてゐると同じやうに生活のためにわづらはされることが多いと云ふんだね?
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)