留針とめばり)” の例文
相手は薄羅紗うすらしゃ外套がいとう恰好かっこうのいい姿を包んで、あごの下に真珠の留針とめばりを輝かしている。——高柳君は相手の姿を見守ったなり黙っていた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大帝ははじき飛ばされたやうに椅子から飛び上つた。そして主人の指さす方を見かへると、それは丁度自分の頭の上で、留針とめばりで刺された油虫はぴくぴく手足を動かせてゐた。
されどそれも皆夫人が足運び来給はるにて、私はこの日も甲斐なく寝台ねだいに横たはりりしにさふらふ。昼前に久しぶりにてびんにさしぐしする髪に結ひ上げさふらひしは、帽子の留針とめばりのためにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
二つのつるぎ切尖きっさきから𣠽頭まで、二本のダイヤモンド留針とめばりのように光っていた。
女はにも云わずに眼を横に向けた。こぼれ梅を一枚の半襟はんえりおもてに掃き集めた真中まんなかに、明星みょうじょうと見まがうほどの留針とめばり的皪てきれき耀かがやいて、男の眼を射る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
剣は持主が手入れを怠けたせいか、古い留針とめばりのように尖端さきが少し錆びかかっていました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)