男々おお)” の例文
葉子の母が、どこか重々しくって男々おおしい風采ふうさいをしていたのに引きかえ、叔母は髪の毛の薄い、どこまでも貧相に見える女だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただ数人の天才のみが、おのれの思想の自由な天地において、男々おおしい孤立の危機を幾度も経過した後に、それから解脱することを得る。
さきに身代みがわりの自分の首に引導いんどうわたして、都田川みやこだがわ水葬礼すいそうれいをおこなった快侠僧かいきょうそう、なんとその猛闘もうとうぶりの男々おおしさよ! 生命力せいめいりょく絶倫ぜつりんなことよ!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の頭に映っていたかつての彼の男々おおしく美しかったあの顔は、今は拡まったくぼみの底に眼を沈ませ、ひげは突起したおとがいおおって縮まり、そうして
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こんにちの世界はこの両者相俟あいまって始めて円満なるを得るものであるが、そとに対して常にわれわれの眼を喜ばせるものは、男々おおしき男性的道徳である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
身をかねるというような女々めめしい態度から小さいながら、弱いながらも胸の焔を吐いて、冷たい社会よのなかきつくしてやろうというような男々おおしい考えも湧いて来た。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
偵察兵の帰りを待つ長羅ながらの顔は、興奮と熱意のために、再び以前のように男々おおしくたくましく輝き出した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「おおっ、御仏みほとけっ」泣いてさけんだ、焔へ向っても狂わしいほど感謝した。まったく、赫光かっこう大紅蓮だいぐれんのうちに見える生信房の男々おおしい働きは、生ける御仏としか見えなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はもっと男々おおしい音楽のほうを好んではいたけれども、聞こえてくるその魂の森と泉とのささやきに恍惚こうこつとなっていた。その森と泉とは、諸民衆の一時的な争闘の間で、世界の永遠の若さを
自分と同じような廉潔さと一種の男々おおしい善良さとを見てとった。