田舎者ゐなかもの)” の例文
兎角とかく東京東京と難有ありがたさうに騒ぎまはるのはまだ東京の珍らしい田舎者ゐなかものに限つたことである。——さう僕は確信してゐた。
若いしうがどれとつてつて見ると、どうも先刻さつきみせて、番頭ばんとうさんとあらそひをして突出つきだされた田舎者ゐなかものてゐますといふから、どれとつて番頭ばんとうつて見ると
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何しろ米の出來るくににゐる田舎者ゐなかものが、こめの出來ない東京へ來て美味うまめしあり付かうとするんだからたまらん………だから東京には塵芥ごみが多い。要するに東京は人間の掃溜はきだめよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
田舎者ゐなかものが増えるばかりだからねえ、と言葉を合せるのが習慣になつてゐた、さうしたお客も永くはおきよに興味をつないでゐないのもまた、例になつて了つた、おや、あれはとしちやんぢやないかと
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
それは油気のない髪をひつつめの銀杏返いてふがへしに結つて、横なでの痕のあるひびだらけの両頬を気持の悪い程赤く火照ほてらせた、如何にも田舎者ゐなかものらしい娘だつた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
成程なるほど先刻さつきみせ田舎者ゐなかもの土左衛門どざゑもんだから、悪人あくにんながらも心持こゝろもちはしない、慄立よだつたが、土左衛門どざゑもん突出つきだしてしまへとふので、仕事師しごとし手鍵てかぎつてたり
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
長命寺の桜餅を糞臭いとは、——僕はいまだに生意気なまいきにもこの二人を田舎者ゐなかものめと軽蔑したことを覚えてゐる。長命寺にも震災以来一度も足を入れたことはない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、それでも田舎者ゐなかものにや、あの野郎のぽんぽん云ふ事が、ちつとは効き目があつたのだらう。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)