かた)” の例文
深く且つかたき基礎を有せり、進歩も若し此れにかなはざるものならば進歩にあらず、退守も若し此れにあはざるものならば退守にあらず。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そうして行きながら、日常生活に没頭していながら、精神の自由をかたく守って、一歩も仮借しない処が Apollonアポルロン 的だ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
發したるは我手中の銃にして、黒く數石を染めたる血にまみれて我前に横れるは我友なり。われは喪心者の如く凝立して、拘攣こうれんせる五指の間にかたく拳銃をつかみたり。
真中に挿しこんである之も鉄のかんぬきは、永遠に絶えざる地上の「悪」をかたく締め切つて居る。彼等はもうものを云ふことも出来ない。云ひ合した様にぴたりと歩みをとめた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
就中なかんずく本草ほんぞうくわしいということは人が皆認めていた。阿部伊勢守正弘はこれを知らぬではない。しかしその才学のある枳園の軽佻けいちょうを忌む心がすこぶかたかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その人の私のこひを容れて、こゝに來給ふべきをば、何故か知らねど、かたく信じ居※。生死の境に浮沈し居る此身の、一杯の清き水を求むべき手は、その人の手ならではと存※。
人を傷けて亡命せしこと、身を賊寨ぞくさいに托せしことより、怪しきおうなの我を救ひしことまで、一も忌み避くることなかりき。友の手はかたく我手を握りて、友の眼光まなざしは深く我眼底を照せり。