片側町かたかわまち)” の例文
若い時分には気の変りやすいもので、茅町かやちょうへ出て片側町かたかわまちまでかゝると、むこうから提灯をけて来たのは羽生屋の娘お久と云う別嬪べっぴん
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
片側町かたかわまちになって、人や車があとへ走るのが可笑おかしいと、其を見ているうちに、眼界が忽ち豁然からっと明くなって、田圃たんぼになった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
屋根の低い片側町かたかわまちの人家は丁度うしろから深い溝の方へと押詰められたような気がするので、大方そのためであろう、それほどに混雑もせぬ往来がいつも妙にいそがしく見え
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
赤門を出てから本郷ほんごう通りを歩いて、粟餅あわもち曲擣きょくづきをしている店の前を通って、神田明神の境内に這入る。そのころまで目新しかった目金橋めがねばしへ降りて、柳原やなぎはら片側町かたかわまちを少し歩く。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
戸数こすう五百に足らぬ一筋町の東のはずれに石橋あり、それを渡れば商家あきんとやでもなく百姓家でもない藁葺わらぶき屋根の左右両側りょうそくに建ち並ぶこと一丁ばかり、そこに八幡宮はちまんぐうありて、その鳥居とりいの前からが片側町かたかわまち
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
城下優しい大川の土手の……松に添う片側町かたかわまちの裏へ入ると廃敗した潰れ屋のあとが町中に、棄苗すてなえ水田みずたになった、その田の名にはとなえないが、其処をこだまの小路という、小玉というのの家跡か
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大工町だいくちょうという片側町かたかわまちで、片側はお寺ばかりある処へ荒物店あらものみせを出し、詰らぬ物を売って商い致すうちに、お梅もだん/\慣れまして、ほか致方いたしかたも無いから人仕事ひとしごとを致しますし、碌には出来ませんが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)