熟視みつ)” の例文
「先生」と源は放心した人のように灰の動く様を熟視みつめて、「先刻の御話でごわすが、足の骨を折られて死んだものがごわしょうか」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さりながらあの市ヶ谷の監獄生活は誠に貴い省察と静思との時間をおまへに与へたと、鏡の中から悲しげな両の瞳が熟視みつめる……
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ね、貴方は私が毎日壁を熟視みつめ乍ら怩つと考へてる姿を考へられるでせう。ほんとに私は考の中に埋つて居ますの。そして考へ出しても私は法官の前で云つた私の考の何処にも否点を見出しません。
獄中の女より男に (新字旧仮名) / 原田皐月(著)
自然は、私に取っては、どうしても長く熟視みつめていられないようなものだ……どうかすると逃げて帰りたく成るようなものだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ともすれば置き忘れたその青玉のひとみほのかなタナグラ人形の陰影かげから小さな玉虫の眼のやうに顫へて、絶えず移り気な私の心を気遣はしさうに熟視みつめる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
薄い日の光は明窓あかりまどから射して、軒から外へれる煙の渦を青白く照した。丑松は茫然と思ひ沈んで、に燃え上る『ぼや』のほのほ熟視みつめて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
向ふの土蔵の屋根の上に枯れかかつた名も知れぬ雑草がしんみりと戦ぐでもなくそよいでゐるのが眼に付いた、その僅な二三本しかない幽かな草の戦ぎがぢつと熟視みつめて居るうちに
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
銀之助は其を熟視みつめ乍ら、種々いろ/\空想を描いて居たが、あまり丑松が黙つて了つて身動きも為ないので、しまひには友達は最早もう眠つたのかとも考へた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
髑髏どくろ熟視みつむ、きゆらそおの血の酒甕さかがめあひだより
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
斯ういふ話を銀之助と文平とが為して居る間、丑松は黙つて、洋燈ランプの火を熟視みつめて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
髑髏どくろ熟視みつむ、わすれたる思ひいでんとするがごと
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
髑髏どくろ熟視みつむ、そべりて石鹸玉しやぼんだま吹くかほを。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひとびとは声もなし、河のおもをただに熟視みつむる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
熟視みつむるはくらき池、谷そこの水のをののき。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みな恋の響なり、熟視みつむれば——調しらべかなでて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
青ざめて熟視みつめつつくるひとみに。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なにを見るとなし熟視みつむる
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
光りつつ、熟視みつめつつ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)