灌頂かんじょう)” の例文
当時の中洲なかずは言葉どおり、あしの茂ったデルタアだった。僕はその芦の中に流れ灌頂かんじょうや馬の骨を見、気味悪がったことを覚えている。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
灌頂かんじょう開壇の特許を与え、宗祇の勧めによって長門住吉法楽万首の奥書を書し、殊に用脚に関する場合に、宗祇と相談のうえ書状を発している。
法師二『言葉も知らぬ下司げすなおやじ。その上にやいばなぞ抜身でげ、そもそも此処ここいずれと心得居る。智証大師伝法灌頂かんじょうの道場。天下に名だたる霊域なるぞ』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こしくに灌頂かんじょうの戒師として招聘しょうへいされ、百日余り御逗留なさいましたが、その国から十二、三歳ぐらいの童子をつれておかえりになり、身のまわりの世話などさせられました。
幅六尺ばかりで、底の見える小さな流れだったが、あしのあいだに流れ灌頂かんじょうが作ってあった。
親鸞はおらぬかっ、愚禿ぐとくはどこにおるかっ。すでにここに立ち帰っておろうが。常陸ひたち一国の修験のつかさ播磨公はりまのきみ弁円が、破戒無慙むざんの念仏売僧まいすに、金剛杖の灌頂かんじょうをさずけに参った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊右衛門は行燈に燈を入れ、それから門口の流れ灌頂かんじょうの傍へ往って手桶の水をかけた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平家物語灌頂かんじょうの巻のうちの一節、天子しょうりょう以下の仮名文字に漢字をあてはめんとして、校合の筆を進めておりましたが、ふと、参考の書を求めんと、書棚に立った時から
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此の断岸絶壁のような智識に、清浅の流れ静かにして水は玉の如き寂心が魔訶止観まかしかんを学びけようとしたのであった。止観はずいの天台智者大師の所説にして門人灌頂かんじょうの記したものである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼はもう捨て身になって進んでゆくと、眼のさきに柳の立ち木があって、その下には流れ灌頂かんじょうがぼんやりと見えた。このあたりは取り分けて薄暗い。その暗いなかに女の幽霊があらわれた。
三井寺は天智天皇の御願寺ごがんじ、その後智証大師がここを伝法灌頂かんじょうの霊所として園城寺おんじょうじを建てた尊い場所である。が、今はもう焼跡しかない。修行の鈴の音も絶え、仏前にそなえる水を汲む人影もない。
稲田の畦中、流れ灌頂かんじょうの有る辺で、後から到頭声を掛けた。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
弘法大師に在っては灌頂かんじょうでありまして、この儀式を通して人々に人格完成の希望を喚起せしめ、かつ自覚に便利な宗教的な合言葉を与えて口に唱えしめ、以て現実生活に就かしめるのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)