澆季ぎょうき)” の例文
近代は澆季ぎょうきなりと時の人が嘆いたあの戦慄すべき保元平治時代よりもまだまだ今日の芸術界の一部は浅ましい。堕落しきってるような気がする。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
これ全くサンチアゴ大尊者の霊験、世は澆季ぎょうきに及ぶといえどもと、お定まりの文句で衆人驚嘆せざるなし。所の監督食事中この報に接し、更に信ぜず。
世は澆季ぎょうきなりとは昔より今までつねに人の言うことであるが、世のつねに澆季なるは、あたかも黴菌ばいきんが自己の繁殖のために生じた酸類のために苦しむごとくに
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
といって、権門にびる徒輩の滔々とうとうとして横行する澆季ぎょうきを歎じているが、一箪いったん一瓢いっぴょうの飲に満ち足りる沢庵にとって、公界は或いは苦界と見えたかも知れない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕の母は偽物にせものだよ。君らがみんなあざむかれているんだ。母じゃないなぞだ。澆季ぎょうきの文明の特産物だ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婦人がかような正しい道理を教育家に対して申上るようになったのは、今の婦人が生意気なからでもなく、澆季ぎょうきの世になったのだといって御歎息なされる訳もありません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それを見ると、僧侶そうりょと儒者と神道家とが三人寄り合ってしきりに世の澆季ぎょうきを嘆いている。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
姥 ああ、お最惜いとしい。が、なりますまい。……もう多年しばらく御辛抱なさりますと、三十年、五十年とは申しますまい。今の世は仏の末法、ひじり澆季ぎょうき盟誓ちかいも約束も最早や忘れておりまする。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところで、澆季ぎょうき芸術の上に、情熱の古代的迸出へいしゅつを望むことは出来ない。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
世情ようやく澆季ぎょうきに移り、人心ようやく菲薄ひはくに流れ、国体まさにその神聖を減じ、忠孝まさにその活気を失わんとするに当たり、広くこの理を開示するは、ひとり真理のために要するのみならず
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼等はかつてナポレオンをオロシヤに破り、転じては若きエルテルの詩人を伊太利に送り、澆季ぎょうきの今日に於ては鈍愚利の尊公をも酒倉へ送らうとする。人間はかくの如く常に温かくあるべきぢやよ。
世の中も澆季ぎょうきになったように思われますて。4095
かような前例のない聖代に際会しておりながら、なお世の中には前代の夢を見ている人たちが多くあって、道徳が腐敗したとか澆季ぎょうきになったとか歎息するのはしからん事だと存じます。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
人は澆季ぎょうきには生れたくないものだ。
澆季ぎょうきの濁り世」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって反感と否定とを以て世の澆季ぎょうきののしったりもするのである。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)