漁夫れふし)” の例文
そして、毎日従兄いとこと一緒に、浜へつれて行つてもらつて、漁夫れふしたちの網をひくのを見たり、沖の方に、一ぱいにうかぶ帆舟をながめたりしました。
さがしもの (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
向ひの小島へ落ちる夕日は極樂の光のやうに空を染めてゐた。漁夫れふし身體からだ付きからして昔はいはのやうだつたり枯木のやうだつたりして面白かつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
下人 こゝに名前なまへいてある人達ひとたち見附みつけい! えゝと、靴屋くつやものさしかせげか、裁縫師したてや足型あしかたかせげ、漁夫れふしふでかせげ、畫工ゑかきあみかせげといてあるわい。
淋しても辛抱して働かつしやい。故郷へ帰つたところで、仕様が無いさかいの。小さな漁位しとつても何にもならん。俺はお前を漁夫れふしにはしたうないのや。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
むかし三保松原みほのまつばら伯良はくりやうといふ漁夫れふしがゐました。松原によく天人が遊びに降りてくるのを見て、或日あるひその一人のあめの羽衣を脱いであつたのをそつと隠しました。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「成程ゆうべはさみいともつたら、ほれやまああんなに積つた。」で濱に立つ漁夫れふしでも、萬祝の古着で拵へた半纏で子供を背負つた女房でも、みんな額に手を翳して山の方を見た。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
大ぜいの漁夫れふしたちが泥に吸はれた大船をひきなづんで居つた所に、怪しげな山男がどこからか現れて、その船の帆柱をむずとつかんだと見てあれば、苦もなく岸へひきよせて
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其時は男盛りの漁夫れふしと船頭親子と一緒だつた。鰹の取れる頃には、其邊は人で埋まるとか、其日は闃寂しんかんとしたもので、蝦網などが干してあつて、二三の隱居が暢氣に網を補綴つくろつて居た。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それは一寸今云ふ譯に行かんのぢやが、自分の得にもならんのに漁夫れふし等の世話を燒いてやつても詰らんからなあ。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
子良はもう立派な漁夫れふしの少年です。親父おやぢ伯良はくりやうたすけて漁に出ます。けれども母のことばかり考へてゐました。子良の幼ない記憶に残る母は鼻の高い、色の真白まつしろな、せいの高い美しい人でした。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
漁夫れふし萬祝まいはひとは違つたにぎやかな服裝がまちのあちこちで見られた。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
近村に傳染病があるから、この秋の祭禮には神輿みこしを出して騷いだりすることを禁ずるといふ父の方針が口汚なく攻撃されてゐた。若い漁夫れふしどもは鼻を鳴らしてうれしさうにその演説を聞いてゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)