溜涙ためなみだ)” の例文
お政が坐舗を出るやいなや、文三は今までの溜涙ためなみだを一時にはらはらと落した。ただそのまま、さしうつむいたままで、ややしばらくの間、起ちも上がらず、身動きもせず、黙念として坐ッていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかるに女房お政はをつと文右衞門がとはず語りをそばにて熟々つく/″\聞居たりしがこらへ/\し溜涙ためなみだ夜半の時雨しぐれと諸共にワツとばかりに泣出せしかば文右衞門は是を見返みかへりコリヤお政何が其樣にかなしくてなき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
意気地いきじと張りを命にして、張詰めた溜涙ためなみだをぼろぼろこぼすのと違って、細い、きれの長い、情のあるまなじりをうるませ、几帳きちょうのかげにしとしとと、春雨の降るように泣きぬれ、うちかこちた姿である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
見送みおくわたくしからはこらへこらへた溜涙ためなみだが一たきのようにながれました。
言ひ終るや、堰止せきとめかねし溜涙ためなみだ、はら/\と流しぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)