湘南しょうなん)” の例文
それは、東京の深川本所に大海嘯おおつなみを起して、多くの人命を奪ったばかりでなく、湘南しょうなん各地の別荘にも、可なりヒドイ惨害さんがいこうむらせたのであった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
房州よりは、湘南しょうなんという方が、何か聞こえが明るいから両方同じくらいの程度に雷の尠いところなら、ようし逗子へ家を建てようと、私は考えた。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もし東京の地震が横浜や湘南しょうなん地方のように激烈であって、家屋の大多数が倒壊したとしたらどうであろう。ちょうど昼食時で、多くの家には火がある。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
湘南しょうなんの海岸も季節前は生地きじのまゝで、一帯の漁村続きに過ぎない。逗子の町はだひっそりしていた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は経師屋きょうじやの恒さんと相識しりあいになったが、恒さんの祖父なる人がまだ生きていて、湘南しょうなんのある町の寺に間借りの楽隠居をしていると知ったので、だんだん聞いてみると
窓の外には、すがすがしい新緑につつまれた湘南しょうなんの山野が、麗かな五月の陽光を浴びながら、まるで蓄音機のレコードのように、グルグルと際限もなく展開されて行く。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
松風さびしき湘南しょうなん別墅べっしょに病める人の面影おもかげは、黄海の戦いとかわるがわる武男が宵々しょうしょうの夢に入りつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ただ、惜しいことには、健康すぐれず、今は湘南しょうなんの地に転地保養をしておりますが、健康恢復かいふくすれば、必ず祖父の名をはずかしめぬ人となることと私は望みを嘱しております。
さて、柿丘秋郎が恩人とあがめるという、いわゆる牝豚めぶた夫人の夫君は、医学博士白石右策しらいしうさく氏だった。白石博士は、湘南しょうなんに大きいサナトリューム療院を持つ有名な呼吸器病の大家だった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
或時彼は湘南しょうなんの老父に此爺さんのうわさをしたら父は少し考えて、待てよ、其は昔関寛斎と云った男じゃないかしらん、長崎で脚疾の治療をしてもらったことがある、中々きかぬ気の男で
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私達は相談をして、湘南しょうなん片瀬かたせの海岸に立派な不具者の家を建てた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
湘南しょうなんは、梅もはやい。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
到頭七里ヶ浜の湘南しょうなんサナトリウムで、懊悩おうのうしながら療養の日を送ってしまいました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
春寒きびしき都門を去りて、身を暖かき湘南しょうなんの空気に投じたる浪子は、ひびに自然の人をいつくしめる温光を吸い、身をめぐる暖かき人の情けを吸いて、気も心もおのずからのびやかになりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
湘南しょうなんから伊豆の町々へかけて、警察電話けいさつでんわが、活発な活動をしはじめた。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)