涜職とくしょく)” の例文
部下の不正行為を煽動せんどうして、ますます松浦屋を窮地に落させた、いわば涜職とくしょく事件の首魁しゅかいといってもいい人物なのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
父の宗城伊十郎は越前家の勘定方に勤めていたが、重役に涜職とくしょく問題が起こったとき、その責任を負わされて退身した。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もしことやぶるれば町長の不名誉、助役の涜職とくしょく、そうして同志会の潰裂かいれつになる。猛太はいま浮沈ふちんの境に立っている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
数日前には、前陸軍工廠長官夫人の虚栄心が、良人の涜職とくしょく問題をひきおこす動機となっているという発表によって、そのひとの化粧した写真が新聞に出た。
暮の街 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
地租改正のおりにも大いに暴威を振るった筑摩県時代の権中属ごんちゅうぞく本山盛徳とはどんな人かなら、その後に下伊那しもいな郡の方で涜職とくしょくの行為があって終身懲役に処せられ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吏にしてひとたび涜職とくしょくはじおかす者あれば、市にさらして、民の刑罰よりもこれを数等厳罰に処した。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
校長の涜職とくしょく事件や東京市会と某会社をめぐる疑獄に関する記事とが満載されている。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひるがえって自分の身を省れば、あの当時、法廷に引出されて涜職とくしょくの罪を宣告せられながら胸中には別に深くはじる心も起らなかった。これもまた時代の空気のなす所であったのかも知れない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お杉の姐さんは縛られた肚いせに役人達の収賄と涜職とくしょくを告訴したので、こんどは役人達がお互いを縛りだした。
……ごらんなさい、とうとう世上の華奢かしゃ淫蕩いんとう贈賄ぞうわい涜職とくしょくの風。役人は役人で、しもしもで、この国をここ十年か二十年でくさらしてしまいそうなほど、浅ましい世の有様を
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兼尾代官は涜職とくしょくの罪によって拘引され、権右衛門も再び牢舎へ戻された。御奉行閣下は改めて八百助を別室へ招待し、茶菓のもてなしと鄭重ていちょうな慰藉の挨拶をした。
それには、三年まえに藩の直轄で始めた、新田開発の事業で資材関係の涜職とくしょく問題が起こり、さいわいおおごとではなかったが、勘定奉行所から(ごく下級の者で)二人、連累者が出た。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暗殺計画などではない、井巻国老と腹心の重臣数名が、青井川の改修工事をめぐって、かなり大掛りな涜職とくしょくをしている。そのほかにも年貢収納の関係で大地主たちと不正の事実がだいぶあった。
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「第一条から第八条まで、江戸家老以下の政治壟断ろうだん、私曲秕政ひせい、収賄涜職とくしょくの事実が挙げてある、これを明日、おまえが御前で読みあげ、記してある重職五名それぞれ永蟄居えいちっきょ、閉門、追放を申渡すのだ」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)