海辺かいへん)” の例文
かくて海辺かいへんにとどまること一月ひとつき、一月の間に言葉かわすほどの人りしは片手にて数うるにも足らず。そのおもなる一人は宿の主人あるじなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
空はここも海辺かいへんと同じように曇っていた。不規則に濃淡を乱した雲が幾重いくえにも二人の頭の上をおおって、日を直下じかに受けるよりは蒸し熱かった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「別に変りましたことも御座いません」と曾根は悩ましそうに、「山を下りましたら、海辺かいへんへ参ってみようかと思います」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
樋口家の先祖は、広く倭寇わこうと云われている海賊の一類であった。大陸の海辺かいへんかすめた財宝をおびただしく所有していた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
五六町もくと山道で、これから七八町のなだれで、海辺かいへんへ接しまして、風も大きになぎました様子、しかし海岸だからどう/\ざば/\と浪を打つ音絶えず
薄倖多病の才人が都門の栄華をよそにして海辺かいへん茅屋ぼうおく松風しょうふうを聴くという仮設的哀愁の生活をば、いかにも稚気ちきを帯びた調子でかつ厭味いやみらしく飾って書いてある。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
では、おんたい始め夫人まで、まだ海辺かいへんから帰っていないのだなと思ったことだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元来がんらい、水仙は海辺かいへん地方の植物であって、山地にえる草ではない。房州ぼうしゅう〔千葉県の南部〕、相州そうしゅう〔神奈川県の一部〕、その他諸州しょしゅうの海辺地には、それが天然生てんねんせいのようになってえている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
この土地ではよるも戸を締めない。乞食こじきもいなければ、盗賊もいないからである。斜面をなしている海辺かいへんの地の上に、神の平和のようなものが広がっている。何もかも故郷こきょうのドイツなどとは違う。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
「じゃいっしょに海辺かいへんへ行って静養する訳にも行かないな」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)