浪打なみう)” の例文
こう夫から言付けられて、お雪は一度流許ながしもとへ行って、戻って来た。あおのけに畳の上に倒れている夫の胸は浪打なみうつように見えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それはさうだが——。」お鳥を見ると、もう、感づいたのかして、こちらをちよツとにらみつけた。そして胸のそとまで乳のあたりが浪打なみうつてゐるのが見える。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
ただ一つ、僕が実感として、此の胸が浪打なみうつほどによくわかる情緒じょうちょは、おう可哀想という思いだけだ。僕は、この感情一つだけで、二十三年間を生きて来たんだ。ほかには何もわからない。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
驚破すはやと、母屋おもやより許嫁いひなづけあにぶんのけつくるに、みさしたるふみせもあへずきててる、しをりはぎ濡縁ぬれえんえだ浪打なみうちて、徒渉かちわたりすべからず、ありはすたらひなかたすけのせつゝ、してのがるゝ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
涙の出ない慟哭どうこくで、両肩と胸がはげしく浪打なみうち、息も出来ない気持になるのだ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)