法師ぼうし)” の例文
梧桐あおぎりの緑をつづる間から西に傾く日がまだらにれて、幹にはつくつく法師ぼうしが懸命にないている。晩はことによると一雨かかるかも知れない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが近づいて来た時、よくよく見ると、一寸法師ぼうしのようで、猿よりもにくらしいのです。そして、からだじゅうに赤い毛が、ぎっしりはえていました。
で、いまではこの安土城あづちじょうのあとへ、信長のぶなが嫡孫ちゃくそん、三法師ぼうしまる清洲きよすからうつされてきて、焼けのこりの本丸ほんまるを修理し、故右大臣家こうだいじんけ跡目あとめをうけついでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おじいさんは、一すん法師ぼうしのように、だんだんたかく、たかく、えないなわをたぐってのぼりましたが、さけっていますので、みぎころげ、ひだりころげそうにしていました。
酔っぱらい星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
信長の嫡子ちゃくし信忠の遺子三法師ぼうしまるがいる関係上、自然、安土以後の織田家の中心がそこに移されたかのような観をなしていたためであるが、勝家には、そのこともまた、何か逸早く
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は取り散らした書物の間にすわって、心細そうな父の態度と言葉とを、幾度いくたびか繰り返し眺めた。私はその時またせみの声を聞いた。その声はこの間中あいだじゅう聞いたのと違って、つくつく法師ぼうしの声であった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひさしく三法師ぼうしぎみにもご拝顔いたしませぬので、ただいまごきげんうかがいをすまして、おいとまをいただいてまいりました。時に、話はちがいまするが、さきごろ、秀吉どのには世にもめずらしいしな
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)