はば)” の例文
基通の車が一人外れて、方角違いに走り去るのを見た平家の侍が追い掛けようとしたが、囲りの人々からはばまれて、やっと思い留まった。
言うことをはばんでしまったようなただいまの一句、「まるで、お嫁さんにでも……」と言った言葉尻をとらまえてしまいました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
攘夷の実を行うあたわざるがために、その一天万乗の君主が攘夷を勅し、幕府これをはばみしがために、遂に幕府を倒すのむを得ざるに到りしのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
主人あるじは直ちに葛城の母と長兄をたずねた。彼は面目ない心地がした。若し死が人生の最大不幸なら、お馨さんの渡米をはばんだ彼人々は先見の明があったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
出遅れと云うような馬数少ない時よりはスタートの可能性も多いわけでありコースを他馬にはばまれたりする機会も多い。どうしても幾分レースに無理が生じるのである。
競馬の一日に就いて (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「矢っ張り商売柄建造物の保護とすぐ分るんだね。実際然うさ。便宜上の問題だけれど、結果から言うと京都では芸術の権威が武力をはばみ止めていることになるだろう」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
宮はみづからの心の底をたたきて、答を得るにはばみつつも、さすがに又おのれにも知れざる秘密の潜める心地ここちして、一面には覚束おぼつかなくも、又一面にはとにもかくにも信ぜらるるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
察する所今度の学校停止に不満を抱き、この機を幸いに遊学を試みんとには非ずや、父上の御許おんゆるしこそなけれ母は御身おんみを片田舎の埋木うもれぎとなすを惜しむ者、如何で折角せっかくの志をはばむべき
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「もし思い通りに銭の面が出ない時には、士気をはばめるおそれがあります」
今はもう進んで穿鑿する気力もき勇気もはばんだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
熱中の間にこそ、ともかく、一時的なりとはいえ、この暴君の境外進出がはばまれることになる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陽に陰にこれをはばめり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
黒血川の名はその時から起り、今こそ水は澄んでいるが、髑髏を見ると、流れ去ることをはばんで恨みをとどめようとするのは、千百年にしてなお浮べないものがあるからだ。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
らちを越えるというのでもなく、行きては止まり、歩みては戻り、みちの窮まらんとするところでは、もりを横ぎり、水のはばむところでは、これをめぐって、行きつ戻りつしていたが
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)