氣色けはひ)” の例文
新字:気色
嗚呼東京に來たのだつけと思ふと、昨晩ゆうべの足の麻痺しびれが思出される。で、膝頭を伸ばしたりかゞめたりして見たが、もう何ともない。階下したではまだ起きた氣色けはひがない。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さうしてゐる内に、女らしい氣色けはひの一人が、冷吉の左側の空いてるところへ來て、徐つと腰をかけた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「お勝ちやん、かしこおまんな。……お勝ちやんのお父つあんは、……」と、猪之介は沈默のテレ隱しに言ひかけて、またハツと四邊あたり氣色けはひに考へ付いた風で、口を噤んだ。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
温泉場の暇な時節で、あたりには客の氣色けはひもなかつたが、彼女はどうしても眠られなかつた。
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
わがおもかげしめやかにすべせなむ氣色けはひにて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
うしてるうちに、階下したでは源助が大きなあくびをする聲がして、軈てお吉が何か言ふ。五分許り過ぎて誰やら起きた樣な氣色けはひがしたので、二人も立つて帶を締めた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
たゞ側に近く人が立つてゐるといふ氣色けはひを、文吾の狸寢入りの魂魄たましひに感じさせるだけであつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
冷吉が今坐つてゐる附近の部屋には、だれ一人、人の這入つてゐるらしい氣色けはひもない。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
廊下を歩く足音がバタ/\ときこえ、やがて、杯盤はいばんを取り片付け、はうきで掃いてゐる氣色けはひがした。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「そこの手擦りが腐つてぶら/″\になつてゐるのですから。」とつゞましくいふ。全くその女である。もうさつき、冷吉の來る前からこゝに出てゐたものらしい。直き側に立つてゐる氣色けはひである。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
黒繻子くろじゆすの襟の中へあごを埋めるやうにして、旦那の立つて行くのを見向きもしないでゐたお光は、旦那が直ぐ下駄を穿かずに長火鉢の前へ坐つたらしい氣色けはひを知ると、俄に濟まぬやうな氣がして
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)