歓楽かんらく)” の例文
旧字:歡樂
大正十年三月春陽堂が拙作小説『歓楽かんらく』を巻首に置きこれを表題にして単行本を出した時再び『すみだ川』をその中に加えた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人の甘い秘密は、さいわい今日まで親分にも知れず、数々の歓楽かんらくを忍ばせて来たが、ここにもやっぱり悪魔は笑っていたのだ。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
といってる口のそばから、ワーッという声が向こうからあがって、いままで歓楽かんらくの世界そのままであったにぎやかな町のあかりが、バタバタ消えてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歓楽かんらく極まって、哀愁を生ずると言った、花と酒とに疲れ果てた、不思議な江戸の一角でした。
破壊以前はかいいぜんが人なみよりもあたたかい歓楽かんらくんでおっただけ、破壊後はかいご悲惨ひさん深刻しんこくであった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
商家の主婦が商業上の智識を以て夫の事業を輔佐ほさすると、これに反して錦繍綾羅きんしゅうりょうらまとうて煎茶せんちゃ弾琴だんきんを事とし、遊興ゆうきょう歓楽かんらく無用の消費に財を散じ、良人おっとの事業に休戚きゅうせきを感ぜざる事や
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
熟々つくづくと見て居ると、くれない歓楽かんらくの世にひとり聖者せいじゃさびしげな白い紫雲英が、彼所かしこに一本、此処ここに一かぶ、眼に立って見える。主人はやおら立って、野に置くべきを我庭にうつさんと白きを掘る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
思いがけない悪魔あくまがでて、のろわれた今宮祭いまみやまつりおどりのむれも、また思いがけない侠人きょうじんの力で、ひるすぎからは、午前におとらぬ歓楽かんらくちまたにかえってにぎわった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれのみか、丹羽昌仙にわしょうせん蚕婆かいこばばあ穴山あなやま残党ざんとう足助あすけ佐分利さぶりの二名、そのほかなみいる野武士のぶしたちまで、みな総立そうだちとなり、あさましや、歓楽かんらくの席は、ただ一声ひとこえで乱脈となった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)