権高けんだか)” の例文
旧字:權高
「おう、そうか。……青瓢箪が来て、そんなことをきいて行ったか。……眼のつりあがった……鼻の高い……権高けんだかな、いやみな面だったろう」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とはいえ当年の面影はなく、つい少時前すこしまえ舞台で見た艶麗優雅さは、衣装やかつらとともに取片附けられてしまって、やや権高けんだかい令夫人ぶりであった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ほどよく政府へ申し立て、しかのみならず右の奉行が英国に対し権高けんだかであったために、戦争が起こったのだと述べている。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この仁は鼻も高いが、いくらか権高けんだかのすっかり官僚風にできている。これらの三つの座席は必ず極っている。船客の座席はどれと定ってはいない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
Yの権高けんだかな気風と、徹底した利己主義に、雪子はやゝ超人的な崇高な感じは受けたが、下町娘の持つ仁侠にんきょう的な志気はYにひどい反抗と憎みを持つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
東京のあるおやしきの旦那は、平生権高けんだかで、出入りの百姓などに滅多に顔見せたこともありませんでした。今度の震災で、家は焼け残ったが、早速食う物がありません。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、その暇にも権高けんだかな伯爵夫人の顔だちに、一点下品な気があるのを感づくだけの余裕があつた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すなわち眼つきは半弓型で、上瞼うわまぶたが波形をなしていた。しかし下瞼はゆるみのない、ピンと張り切った一文字で、心持ち眼尻が上がっているかしら? が権高けんだかには見えなかった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
或日意地悪の職人が番頭と喧嘩をして、仕事をめて出て行かうとした。其時自分がすばかりでなく、娘にも止せと、うぬが雇つた者のやうに、権高けんだかに言つたが、娘は渋つた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
なりに似合わず悠然ゆうぜん落着済おちつきすまして、いささ権高けんだかに見えるところは、土地の士族の子孫らしい。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉のあたりには権高けんだかな、誇らしげなものさえあらわにみえる、——環境に依ってこうまで変るものだろうか、志保は眼をみはる思いだった、妹の気質はもともと華やかさ豊かさを好み
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
頭巾の権高けんだかの貴婦人を迎えに来たところの杖を携えた小怪漢——すなわち宇治山田の米友でしたが、お雪ちゃんは、その出現ぶりに、なんだか夢に夢を見るような思いをさせられました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かの女の権高けんだかな歌の師匠。
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
藤波は、痩せた権高けんだかな顔を蒼白ませ、立ったままジロジロと顎十郎の顔を眺めていたが、やがて噛んで吐き出すように
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それ権高けんだかな御後室様の怒声よりも、れた子供の頼無たよりなげな恨めしげな苦情声くじょうごえであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「よいわ。来るのが厭じゃというなら、こっちからそっちへ行くまでじゃ。いやそういう権高けんだか者が、かえって俺には面白い、さあ皆も来るがよいわ。頭痛見舞いに参るとしようぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紙屋というのは権高けんだかであることが通例のようであった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仙さんは多少たしょう富裕ゆたかな家の息子の果であろう。乞食になっても権高けんだかで、中々吾儘である。五分苅頭ごぶがりあたま面桶顔めんつうがお、柴栗を押つけた様な鼻と鼻にかゝる声が、昔の耽溺たんできを語って居る。仙さんは自愛家である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
権高けんだかの眼で見詰めながら……「もっともこれには云うに云われぬ深い訳があっての事。お前は妾とは義姉妹、大事を明かしても心配はない。それ故今こそ心を割って何も彼もお前に話しましょうが」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)