楊柳かわやなぎ)” の例文
洪水の時にでも、土をさらわれて行ったらしい断岸きりぎしに、楊柳かわやなぎおおきなのが、根を露出して、水のうえへかがみ腰に枝を垂れている——
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
台下にはちらりほらり、貧しそうな農家は有るが、新利根川べりには一軒も無く、唯蘆荻あし楊柳かわやなぎが繁るのみで、それもだ枯れもやらず、いやに鬱陶うっとうしく陰気なので有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
鷦鷯みそさざいのやうに敏捷に身をひるがえして、楊柳かわやなぎや月見草のくさむらを潜り、魚を漁つてゐる漁師たちに訪ね合はしてゐる直助のこんの姿としっかりした声が、すぐ真下の矢草の青い河原に見出みいだされた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「あの渡船小屋に拠って戦え。小屋の蔭や楊柳かわやなぎを楯にとって、めったに出るな。物蔭からただ矢を放て」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから少し降りてゆくと、楊柳かわやなぎに囲まれた太古のような水がある。周囲ざっと六、七町もあろうか。駒ヶ岳の影も、いちめんの星も、ありのままに、池のおもてうかんでいた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあいだに——以前いぜんの場所の楊柳かわやなぎのこずえから、ヒラリと飛びおりたひとりの女がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲鳴ひめいをあげてげだすところを、やっといすがった竹童が、ただ一息ひといきに、りさげようとすると、サヤサヤと葉をそよがせた楊柳かわやなぎのこずえから、雨でもない、つゆでもない、ただの光でもない
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜなのか、この地方にそう見えない楊柳かわやなぎが、この池の周りだけには生い茂っている。権之助はさおを持ち、その代りに、彼の手にあった松明たいまつは武蔵が持ち、すべるように池の中央を横切って行った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たもとでフワリとった時、楊柳かわやなぎの黄色い枯葉がピラピラと舞って光る。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楊柳かわやなぎの並木が、白い雨に打ち叩かれて、大きく揺れている中を。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楊柳かわやなぎのみどりを煙らして、春のはうすずきかけていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは楊柳かわやなぎにつつまれている池畔ちはん雨乞堂あまごいどうであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)