棟割むねわり)” の例文
棟割むねわり長屋を一軒仕切ったというような軒の低い家で、風雨にさらされて黒くなった大和障子やまとしょうじに糸のような細い雨がはすに降りかかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
佐内坂の崖下、大溝おおどぶ通りを折込おれこんだ細路地の裏長屋、棟割むねわりで四軒だちの尖端とっぱずれで……崖うらの畝々坂うねうねざかが引窓から雪頽なだれ込みそうな掘立一室ほったてひとま
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まだ口を割らないが、多寡たくわ棟割むねわり長屋だ。家の外へ隱すやうなこともあるまいから、床下でも掘ればいづれは出て來るよ」
で、若い武士の思惑おもわくとしては、たかが安手の芸人である。どこかみすぼらしい露路の奥の、棟割むねわり長屋の一軒へでも、はいって行くものと思っていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家じゅうがらんとして……というと相応に広そうだが、あさくさ御門に近い瓦町かわらまちの露地の奥、そのまた奥の奥というややこしい九尺二間の棟割むねわりである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人の太腿をつねったりすることは、あたりまえの挨拶と心得ているに過ぎない、下町の棟割むねわりの社会などには、こんなことはざらにある、すなわち、親爺や兄貴などから
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
早い話が、此の家にしても然うじやないか、三軒の棟割むねわり長屋を二軒まで田舎者に占領せんりやうされてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
サア出ようと思ったが、とても表からは出られませんから、屋根伝いにして逃げようと、階子はしごあがって裏手の小窓を開けて見ると、ずうっと棟割むねわり長屋になって物干がつながって居て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
向島の請地うけじにまだ壁も乾かない新建ちの棟割むねわりを見つけて契約し、その日のうちに荷造りをしてトラックで運び出してしまい、千葉を引き払った銀子たちがそこへ落ち着いたのは
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同じ新開の町はづれに八百屋と髪結床かみゆひどこ庇合ひあはひのやうな細露路、雨が降る日は傘もさされぬ窮屈さに、足もととては処々ところどころ溝板どぶいたの落し穴あやふげなるを中にして、両側に立てたる棟割むねわり長屋
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
前の棟割むねわり長屋では、垣から垣へ物干竿をつらねて、汚ない襤褸ぼろをならべて干した。栗の花は多く地に落ちて、泥にまみれて、汚なく人にまれている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)