杜鵑とけん)” の例文
其処そこを出た自分等夫婦は杜鵑とけん亭を存じでないやうに伺つた松岡曙村しよそんさんに晩餐をそのうちげることに同意して頂いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
むすんだこと故、途中で求めた品でござるが、この杜鵑とけんなづけた一管を、お誓いのしるしがわりに、お持ちくださるまいか
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何処いづこにか去れる、杜鵑とけんの行衛は問ふことを止めよ、天涯高く飛び去りて絶対的の物即ち理想アイデアルにまで達したる也。
杜鵑とけん行衛ゆくゑは、問ふことを止めよ、天涯高く飛び去りて、絶対的の物、即ち Idea にまで達したるなり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
我は不幸にしてこの詩人の詩論に賛ずるあたはざりき。しかれども我は少なくとも彼を解しえたりと思ひぬ。時は移つて夢の如く談は流れて水の如し。杜鵑とけんもいくたびか聴きぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
昔は天津橋上てんしんきょうじょう杜鵑とけんいたのを以て、天下の変を知ったものがあるではないか。お膝元から僅か十五里のところで、無残にも霊山を食い物にしている、それを抑えることができない……
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いとかすけく曳くはが子のの裾ぞ杜鵑とけんまつなるうすくらがりに
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
杜鵑とけん一聲しばしは空に物もなし
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
鳴くや杜鵑とけんのひと聲に
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
だ土の上にはまだらに日影が残つて居て午後六時頃かと自分は一人で思はれるのであつた。杜鵑とけん亭の食堂の一つの卓を自分等は選んで席に着いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
杜鵑とけん亭の食堂はすなはち道のり込んだ空地あきちなのであるから十四五分して小さい料理店の家の中から客を見附けた給仕女が布巾ふきんを持つて出て来て卓を拭く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
むせびつつ杜鵑とけん昼啼きこだましぬ鶏冠山のくづれたるらう