朝未明あさまだき)” の例文
しかるにその年の九月初旬しょうが一室を借り受けたる家の主人は、朝未明あさまだきに二階下より妾を呼びて、景山かげやまさん景山さんといとあわただし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三寸の緑から鳴きはじめた麦の伶人れいじんの雲雀は、麦がれるぞ、起きろ、急げと朝未明あさまだきからさえずる。折も折とて徴兵ちょうへいの検査。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「そはまことに嬉しき事かな。さばれかく貴き医師くすしのあることを、今日まで知らざりしおぞましさよ。とかくは明日往きて薬を求めん」ト、海月くらげの骨を得し心地して、その翌日あけのひ朝未明あさまだきより立ち出で
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
つかはし置候事故昨日もれいの藥取に參りしなり其節弟十兵衞朝未明あさまだきより出立致し候とて右の金子を取出し改めて懷中くわいちうへ入候事どもうらやましに見て歸り候間もしや彼の道十郎が困窮こんきうせまりて如何の了簡れうけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
朝未明あさまだき、竹藪の奥にひそかな物音が蠢いてゐる。足元に心を配り、忍び足して厚い朽葉を踏む音であるが、二足三足するたびに暫く杜絶えるところをきくと市へ出る農夫達の筍を掘る音であらうか。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
この一行が千住の小塚原こづかっぱらに着いた時分も、朝未明あさまだきでありました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)