有明ありあ)” の例文
薄暗くともった有明ありあけの下に倉地は何事も知らぬげに快く眠っていた。葉子はそっとそのまくらもとに座を占めた。そして倉地の寝顔を見守った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
時に、有明ありあけのそらける夜鳥の声か。あるいは山家の牧童でも歌っていたのか、ふと古調ゆかしい一篇のうた月魄つきしろのどこからともなく聞えていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜はまだ明けぬが有明ありあけのつき、かすかに雲のまくをやぶって黒い鞍馬くらまの山のにかかっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ白壁も真新しい長浜の城内では、はやくも、この有明ありあけをともがうごき出している。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予言よげんの文字にいつけられていたひとみをあげてふと有明ありあけの空をふりあおぐと、おお希望の象徴しょうちょう! 熱血ねっけつのかがやき! らんらんたる日輪にちりん半身はんしんが、白馬金鞍はくばきんあん若武者わかむしゃのように
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明けやすい短夜みじかよである。五こうといえばもう有明ありあけの色がどこにもほのかである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門のくぐり戸を開けて、その前に立って見送っていた性善坊の姿もすでに見えない、しきりと天地の寂寞せきばくてる暗い風があるばかりだった。白い小糠星こぬかぼし有明ありあけに近い空をいちめんにめていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一穂いっすいは、いつか有明ありあけめいている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)