是方こちら)” の例文
普通なみのものが其様な発狂者を見たつて、それほど深い同情は起らないね。起らないはずさ、別に是方こちらに心をいためることが無いのだもの。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私も奥様にられたままで、追出される気は有ません。身の明りを立てた上で、是方こちらから御暇を貰って出よう、と心を決めました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かはつた土地で知るものは無し、ひて是方こちらから言ふ必要もなし、といつたやうな訳で、しまひには慣れて、少年の丑松は一番早く昔を忘れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『あなたの部屋の方は、まだそれでもうらやましい。是方こちらの窓から見てますと、あなたの部屋の窓には一日日があたっています』ッて。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其時丑松が顔を差出したので、お志保も是方こちらを振向いた。お志保は文平を見て、奥様を見て、それから丑松を見て、あかくなつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「三吉も最早東京へ帰るそうなが、わざわざ是方こちらへ廻るには及ばん、直に帰れ、その方が両為りょうだめだ」こんなことが書いてあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
眼鏡越しに是方こちらを眺める青木の眼付の若々しさ、往時むかし可懐なつかしがる布施の容貌おもてあらわれた真実——いずれも原の身にとっては追懐おもいでの種であった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼女の側には、女同志身体を持たせ掛けて、船旅に疲れたらしい眼付をしているものもあった。日をうけながら是方こちらを見ている夫婦者もあった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
血にまみれながら是方こちらを見た時の眼は小鳥ながらに恐ろしく、その小さな犠牲を打殺すまでは安心しなかったことがある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
是方こちらでも子供衆が出来さっせえて、御新造さんも手が有らっせまいで、寄るだけは寄れ、御厄介には成るな——こう姉様あねさまから言付かって来ました」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宅がよく申しましたよ、是方こちらへ上って御話をしてると、自分のふさがった心が開けて来るなんて、そう言っちゃあ吾家うち
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
目下のものが旧家の家長に対する尊敬の心は、是方こちらに道理があると思う場合でも、不思議に二人に附いて廻った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
是方こちらの旦那様も奥様を探して被入いらしゃる御様子ですが、丁度好さそうな人が御座いますとかッて。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正直な話が、山本さんは是方こちらから愛した経験は有っても、未だひとのように、真実ほんとうに愛されたということを知らなかった。こんな風にして一生は済んで了うのか。それを彼は考えた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私が是方こちらへ上る時に、『おれも一諸に行こう』と申しますから、誰がそんな人に行って貰うもんか、旦那様の御家へなんぞ来るのはしとくれ、と言って遣りましたんで御座ます」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「もし母親さんが是方こちらへ参りましたら、叔父さんからもよく話してって下さい」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
是方こちらは」と相川は布施の方を指して、「布施君——矢張やはり青木君と同級です」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暑中休暇が来て見ると、彼方あちらへ飛び是方こちらへ飛びしていた小鳥が木の枝へ戻って来たように、学窓で暮した月日のことが捨吉の胸に集って来た。その一夏をいかに送ろうかと思う心地に混って。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鋭いナイフで是方こちらの胸を貫徹つきとおさずには置かないほどの力をった眼だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
運動場の区劃くかくは碁盤の目を盛ったような真直な道で他の草地なぞと仕切ってあって、向うの一角に第一期の卒業生の記念樹があれば是方こちらの一角にも第二期の卒業生の記念樹が植えてあるという風に
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「橋本さんは是方こちらですか」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)