日暮方ひくれがた)” の例文
お話変って、十二月五日の日暮方ひくれがた、江戸屋の清次が重二郎の居ります裏長屋の一番奥の、小舞こまいかきの竹と申す者のたくへやってまいり
冬の日は分けて短いが、まだ雪洞ぼんぼりの入らない、日暮方ひくれがたと云ふのに、とどこおりなく式が果てた。多日しばらく精進潔斎しょうじんけっさいである。世話に云ふ精進落しょうじんおちで、其辺そのへんは人情に変りはない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いまだにとうさんはあの『みさやまたうげ』の山越やまごしをわすれません。草臥くたぶれたあしをひきずつてきまして、日暮方ひくれがたやますそはうにチラ/\チラ/\燈火あかりのつくのをのぞんだときうれしかつた心持こゝろもちをもわすれません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
着物は黄八丈の唐手もろこしでの結構な小袖に、紫繻子むらさきじゅすに朱の紋縮緬の腹合せの帯でございますが、日暮方ひくれがたゆえ暗くってはッきり様子は解りませんけれども、誠に上品な器量の宜しい娘でございまする。
赤鬼の面という……甲羅をひっからげたのを、コオトですか、羽織ですか、とに角紫色の袖にぶら下げた形は——三日月、いや、あれは寒い時雨しぐれの降ったりんだりの日暮方ひくれがただから、蛇の目とか
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)