旅籠代はたごだい)” の例文
私は体の休まるとともに、万感胸に迫って、涙は意気地なく頬を湿らした。そういう中にも、私の胸を突いたのは今夜の旅籠代はたごだいである。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
他人ひと不愍ふびんをかけるもよいが、旅籠代はたごだいの尻ぬぐいなどさせられては堪らぬ。ここをつまで、知らぬ顔していやい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御待おまち申さんかと後藤始め三人の旅籠代はたごだい二十日分十九くわん五百文金となして三兩と二百五十文に相成候といひつゝ書付かきつけを差出しけるに夫婦はかほを見合せ暫時しばらくこたへもなかりしかば手代は樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とどこお旅籠代はたごだいの催促もせず、帰途かえりには草鞋銭わらじせんまで心着けた深切なうちだと言った。が、ああ、それだ。……おなじ人の紹介だから旅籠代を滞らして、草鞋銭を貰うのだと思ったに違いない。……
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「帳場の立て替えや、旅籠代はたごだいの倒れは仕方がないが、なにか、相宿のお客様の物でも紛失していないか、それを先に調べて来なさい。エエ忌々いまいましいやつめ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見聞みきゝして大いに悦びしとは雖も是までも萬事後藤の世話になりしことゆゑせめ旅籠代はたごだいだけは衣類を賣て拂はんといふに夫をもとめられ猶亦二十兩の資本金もとできんまで長兵衞に預けし後藤の深切しんせつ何と禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それから、旅籠代はたごだいや医者代を、駕屋が払っていたが、そのたもとを探ってみると、金と印籠いんろうが忍ばせてあった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、露八が、最も感心したのは、彼の金に対する緻密ちみつさだった。馬子まご駄賃だちんの値ぎり方、旅籠代はたごだいのかけあい、鼻紙や茶代の端にでも、針ほどな、無駄もしない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、二晩の旅籠代はたごだいにもたりない。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)